周産期の栄養学について考えてみませんか?

October 17–20, 2027
ACT CITY Hamamatsu, Japan
皆さんは、「食育」と聞くと、どのようなことを思い浮かべますか。子どもたちに食べ物の大切さを伝えることや、学校給食を通して栄養について学ぶことを想像する人も多いかもしれません。しかし、食育は子どもだけのものではありません。私たちは大人になってからも、年齢や生活の変化に合わせて、食べることと健康について学び続ける必要があります。
2026年、食育基本法が改正され、「大人に向けた食育」が、これまで以上に重視されるようになりました。その中で、これから皆さんにぜひ関心を持ってほしいのが、妊娠する前から、妊娠中、出産後、そして赤ちゃんを育てる時期までをつなぐ栄養の学びです。
赤ちゃんの栄養というと、生まれてから飲む母乳やミルク、離乳食を思い浮かべるかもしれません。でも、赤ちゃんの成長を支える栄養は、お母さんのおなかの中にいるときから関わっています。さらに、妊娠する前の食生活や健康状態にも目を向けることが大切です。
そこで注目されているのが、「プレコンセプションケア」です。「プレ」は「前」、「コンセプション」は「受胎」を意味します。少し難しい言葉ですが、妊娠前から自分の体や生活を知り、将来の健康や妊娠・出産に備えて健康を整えていくこと、と考えてみてください。妊活を始めた人だけが対象ではありません。また、女性だけに関わるものでもなく、男性やパートナーも一緒に考えていくことが大切です。高校生や大学生の皆さんにとっても、今の自分の健康を大切にすることが、その第一歩になります。
この分野を学ぶうえで知っておきたいのが、「DOHaD(ドーハッド)」という考え方です。英語の「Developmental Origins of Health and Disease」の頭文字を取った言葉で、日本語では「健康と疾病の発達起源」と表現されます。
これは、お母さんのおなかの中にいる時期や、生まれて間もない時期の栄養状態、さまざまな環境が、赤ちゃんの成長だけでなく、大人になってからの健康や病気のかかりやすさにも影響する、という考え方です。例えば、体や臓器がつくられる時期の栄養環境は、その後の代謝、つまり食べ物をエネルギーや体の材料として利用する仕組みにも関わると考えられています。
ただし、「妊娠中の食事だけで、子どもの一生の健康が決まる」という意味ではありません。健康には、遺伝的な特徴、生まれた後の食生活、運動、生活環境など、多くのことが関わっています。DOHaDは、お母さんに責任を負わせるための考え方ではなく、人生の早い時期から、本人や家族を社会全体で支えることの大切さを教えてくれるものです。
では、妊娠前から赤ちゃんを育てるまでの栄養支援は、すでに十分に整っているのでしょうか?
現在も、妊娠前からの食生活や妊娠中の体重増加、授乳・離乳についての指針はあります。しかし、それぞれの時期に必要な知識をつなぎ、一人ひとりの体調や暮らしに合わせて、継続して支えていくためには、さらに研究と実践を積み重ねる必要があります。
妊娠前には、普段の食事や栄養状態を見直すことが大切です。妊娠中には、お母さん自身の健康を守りながら、おなかの赤ちゃんの成長を支えます。出産後には、お母さんの体の回復や生活の変化に配慮しながら、母乳や育児用ミルク、そして離乳食を通して赤ちゃんの成長を支えていきます。この一連の過程では、必要な支援も、食事に関する悩みも変わっていきます。
だからこそ、一つの職種だけで全てを担うのではなく、管理栄養士、助産師、看護師、医師などが、それぞれの専門性を持ち寄ることが大切です。管理栄養士は食事や栄養状態を見つめ、助産師や看護師は妊娠・出産・育児に伴う体と心の変化や日々の生活を支えます。互いに情報を共有することで、栄養の知識を、無理なく続けられる食事や暮らしにつなげることができます。
管理栄養士を目指している皆さんには、ぜひDOHaDの概念を学んでほしいと思います。栄養素の名前や働きを覚えることは、もちろん大切です。そのうえで、「この時期の栄養が、その人の将来や次の世代の健康にどうつながるのだろう」と考えると、栄養学の学びはさらに広がります。
これから進路を考える高校生の皆さんにとっても、栄養学は「何をどれだけ食べればよいか」を学ぶだけの分野ではありません。人の一生に寄り添い、家族や次の世代の健康を支える学問でもあります。まだ答えが十分に分かっていない問いがあり、その答えを探す研究と、得られた知識を人々の暮らしに届ける仕事があります。
2027年10月には、静岡県浜松市で第14回国際DOHaD学会学術集会が開催されます。プログラムのハイライトも告知され、世界の研究者や医療・保健の専門職が、発達の早い時期の環境と将来の健康について学び合う機会が近づいています。
学会URL(プログラム・ハイライト 掲載)
妊娠を迎えるための健康づくりから、妊娠中の母子の健康、そして赤ちゃんを育てる日々まで。この流れを切れ目なく支える栄養学と支援の仕組みを、私たちはこれからさらに充実させていく必要があります。皆さんが大学で学ぶ知識や、これから抱く疑問も、その取り組みにつながっていきます。
現在、食品フロンティア研究室(大久保剛教授)では、企業との共同研究として、大規模な母子栄養調査で得られた母乳の分析を行っています。赤ちゃんが成長の初期に受け取る栄養を、母乳に含まれる成分から詳しく調べることで、母子の健康を支えるための知見を積み重ねています。
当研究室も、来年の国際学会での発表に向けて準備を進めています。授業で学ぶ栄養学と、研究の現場で生まれる新しい知見をつなぎながら、妊娠前から子育て期までの健康を支える栄養学を、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
興味のある方は、遠慮なくお尋ねください。 E-mail:t‐ohkubo@sendai-shirayuri.ac.jp
文責:大久保 剛



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